<<本家本流Train Simulator+向谷流電車でGO!>>
都心の大動脈として不動の地位を誇る東京急行。その路線の大半を収録した「Train Simulator+電車でGO! 東京急行編」(企画・製作・発売:音楽館 企画:レールファン東急 販売:タイトー)が12月18日発売された。GDでも作品を入手したのでその内容についてレポートしたいと思う。(斉場 俊之;General Depot)
・世紀の?コラボレート、その実態は
今回の作品の最も注目すべき点は、「Train Simulator」と「電車でGO!」という鉄道運転シミュレーションゲームの2大タイトルが名を連ねて一つの作品となったということであろう。突然の合併?劇で当初は驚いたものだが、実際のところは音楽館のTrain Simulatorをベースに、電車でGO!モードを搭載したもの、という塩梅になっている。ゆえに、電車でGO!モードにおいても画像は実写映像であるし、これまでのように駅間が短縮されることも無い。一方で、Train Simulatorモードの方は従来の作品と同様のゲームシステムが踏襲されている。
結果、Train Simulator運転士にとっては、従来の作品同様に安心して購入し、息抜きに電車でGO!モードを楽しむといった感じで作品を楽しむことが出来るだろう。しかし、電車でGO!ファンは、実写映像、実距離ということでこれまでの感覚で購入すると驚くことになるかもしれない。
なお、このコラボレーションについては、今後も行っていきたいという製作側の意向が伝えられているが、これからの作品がすべてこの形になるということではなさそうだ。すでに音楽館は九州新幹線をTrain Simulatorの単独作品として発表している。
・路線は3路線、車両は7車種
路線は東急の根幹をなす3路線が採用された。TSシリーズはあまり多くの路線を収録しない(できない?)傾向があり、バリエーションを楽しむという意味では電車でGO!的であり、これもコラボレーションの成果といえるかもしれない。
東横線は言わずとしれた東急の看板路線。横浜・桜木町と東京・渋谷を結び、近年特急運転も開始された注目度の高い路線だ。さらにこの路線は来年早々横浜みなとみらい地区への新線と接続され、横浜以南の区間は廃止されるだけに、メモリアルとしても価値のある作品となった。ゲームとしては起伏・カーブの多い線形と、前半のATS部分、後半のCS-ATC部分での保安システムの違いが楽しめるであろう。
田園都市線は渋谷から郊外の中央林間まで、東京のベッドタウンをつないでいる路線で、国内で最も混雑する路線のひとつとして知られている。全線地下、または高架で踏み切りのない構造となっており、大量高速輸送のお手本のような路線だ。ゲームとしてはタイトなダイヤの中比較的高速からの駅停車が多く、勾配や回生ブレーキの効きにも気を配る必要があるため、大胆かつ慎重なブレーキさばきが必要だ。
大井町線は他2線に比べると下町の生活輸送的な色合いのある路線で、運行種別も各停のみとなっている。短い駅間で次々と停車をこなす緊張感は、この路線が一番だろう。この路線固有の運行車両である8090系はブレーキにクセがあるため特にスリリング?な運転が経験できると思う。
運行可能車両は7車種、それぞれ実際に運転されている路線でプレイが可能になっている。今回は、特に車両ごとの個性が強く反映されているので、車種ごとに運転パターンをしっかり作っておかないとスムーズな運転は困難だろう。
・TSのこだわりが反映された電車でGO!モード
さて、作品の中身に目を移してみたい。まず、従来作と比べて大きく印象が変化した電車でGO!モードについて見てみよう。先に説明したとおり、画面はCGによるものではなく実写映像となっている。電車でGO!特有の画面フレームに収まる実写映像は、個人的には違和感が大きい。しかし、操作に関しては従来の電車でGO!のスタイルがそのまま活かされているので、戸惑うことは無いだろう。
しかし、その操作から反映される車両の挙動については、従来の電車でGO!のそれではなく、Train Simulatorのものだ。サウンドは量感と質感をもって耳に心地よく響き、加速感、減速感ともに自然だ。単純な操作性でリアルな感覚を楽しめるようになったことは、今回のコラボレーションにおけるいちばんの成果かもしれない。
しかし、一方で私は、今回のコラボレーションにおいては「電車でGO!」の良さがなくなってしまうのではないか、と危惧していた。私の考える電車でGO!の良さとは、厳密な意味での鉄道運転シミュレーションとしての「リアリティのなさ」である。リアリティのなさが良さ、と聞くと首を傾げるかもしれないが、電車でGOという作品自体はありえない車両特性、短縮された駅間距離、でたらめなランカーブと実際の鉄道を知る者にとっては不自然なところが多い。しかしそれは一方で、フェイクゆえの自由な演出で鉄道運転のエッセンスを限りなく凝縮することを可能としたわけで、鉄道ファンがニヤリとし、一般のユーザも楽しめるという相反したニーズを実現する電車でGO!最大の特長であったと私は考えるのだ。 (ここ数作の電車でGO!シリーズは、スタッフがこの特性を十分に理解できずに、迷い道にはまり込んでいる感はあるが)。今回、ゲームシステムこそ同様のものを用意したが、実車映像ゆえに駅間の距離短縮が出来ず、加減速も実車相当のものとなっているため、従来からするとやや緩慢な電車でGO!になってしまったのではないか、と私は思ったのである。
しかし、実際に電車でGO!モードを運転すると、以外にそのマッチングのよさを感じた。遊び要素はやはりTrain Simulator的というか、あっさりした感じだが、ゲームとしての緊張感、爽快感は電車でGO!の良いところをしっかり受け継いでいる。通勤路線の東急だからかもしれないが、駅間が短縮されていなくても退屈することはないし、ナビゲーションを見ながら私は意外に、今回の作品においてはTrain Simulatorモードよりも電車でGO!モードの方が楽しいのではないかと思ったくらいだ。アーケード版初代からPS版プロフェッショナル仕様までのいわゆる「電車でGO!」らしさとはまた異なるが、電車でGO!の新しい1バージョンとして評価して良いのではないかと思う。
・TSモード・・・こだわりとファンの声は今回も活きている
次に、Train Simulatorモードであるが、こちらはこれまでのPlaystation2における同シリーズの流れを汲んでおり、目新しいところはない。実車感あふれる車両の挙動、心高鳴るモータ音、ATC-CSの再現など実際の運転をトレースすることを主眼としたゲームシステムと、安心して遊べる作品に仕上がっている。
しかし、画面の画質についてはこれまでのPS2シリーズの中では一番見にくい。「画面のコマ送りがスムーズなPC版PLUSシリーズ」と表現すれば良いだろうか。3路線収録という欲張りな内容が、ここでは却ってデメリットとなってしまっている印象だ。こればかりは音楽館を責めるわけにも行かず、今後のハードウェアの進化と光学メディアの大容量化、データ圧縮技術の改善を待たねばなるまい。
その一方で音楽館らしい細やかな進化は健在だ。TS御堂筋線で採用された駅停車中の車両の横揺れはきちっと再現。エアサスペンションの「プシュ、プシュ」という音と共に、背中のほうで人が慌しく乗り降りしている様子が目に浮かぶようだ。
運転に関わる部分では、東急独特のノッチ操作と、シリーズ初となる「回生失効」が導入されている。回生失効とは、減速のためにモータを利用して移動エネルギーを電気に変換、その電気を他の電車に利用してもらうことでエネルギーを減衰させ、車両を減速させる「回生ブレーキ」が、電気を利用する他の車両がいないなどの理由で上手く動作しない現象のことだ。一定条件でランダムに発生するようで、回生失効と共に運転計器に変化が起こり、一瞬であるが減速力が衰える。これまでTrain Simulatorでは「同じように操作すれば、同じように運転できる」ことが当たり前だったので、環境による運転特性の変化は大きな一歩といって良いだろう。
さらに、田園都市線・東横線で採用されているCS-ATC(Cab Signal Auto Train Control;車上信号式自動列車制御装置)もしっかり再現されている。CS-ATCのシステム解説については別の機会に譲るが、可能な限り運転保安システムにもリアリティを追求しているところは、さすが音楽館だ。細やかなリアリティの積み重ねで、その鉄道の雰囲気を表現する。地味で難しい印象のTrain Simulatorであるが、実際に忠実であることのパフォーマンス、面白さといったものを、ぜひ電車でGO!ファンの方にも感じて頂きたい。
・コラボレーションを活かした作品のブラッシュアップを
最終的なこの作品の評価を考えてみたい。
「世紀の合体」と銘打たれたこの作品、電車でGO!モード、Train Simulatorモードともに運転を十分に楽しめるだけのレベルに仕上がっている。特に、電車でGO!モードは実写・実距離であってもゲームシステムが破綻せず、より多くの人にリアルな電車の運転が楽しんでもらえることが可能となった点を高く評価したい。
しかし、コラボレーションと銘打つからには、1+1=2で良しとするのではなく、1+1を3にも4にもする努力が欲しかったような気がする。例えば、今回は全般に鉄道シミュレーションに縁がない人に対するフォローが薄い。最低限「THE 京浜急行」にあったような模範運転があれば見よう見真似の運転が出来るし、東急沿線に住んでない人でも模擬線見することでよりリアルな運転が可能になったはずだ。
また相互のモードが独立しすぎていてはいないだろうか。電車でGO!モードの何々線をクリアしないとTSモードのあの車両が出てこない、など、電車でGO!プロフェッショナル仕様で見られるような攻略性を、TS、電GO!のモードを問わずに設定すれば、電GO!ファンがTSの良さを体験する、もしくはその逆を体験できる良いきっかけとなったのではないだろうか。もしくは、電車でGO!とトレインシミュレータのゲームシステムを融合した、全く新しいゲームシステムという方向性も考えられるだろう。
ここのところ作品の発売ペースが過密になっており、協力会社の事情等でなかなか十分な開発期間が取れないことは容易に推察できるが、二つの作品を並列に置くだけでなく、混ぜ合わせて磨き上げることで、鉄道シミュレーションの未来を開く新しいシリーズとしての方向性が見えてくるような気がする。このあたりはシリーズ次回作以降に期待したいところだ。
何事も前向きに取り組んでもらえる音楽館だけに、最後は期待も込めたちょっと辛口の評価となってしまったが、決して今作の完成度が低いということではない。むしろ、電車でGO!ファンもTrain Simulatorファンも安心して購入できる、内容盛りだくさんの鉄道シミュレーションゲーム界のクリスマスプレゼントだ。年末年始、ぜひじっくりと楽しみたい。
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