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2005年7月27日

逆噴射不作動で着陸 誰の「信頼回復」が遠のいたのか

日航機トラブル 逆噴射不作動で着陸 子会社の整備ミス(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050726-00000134-mai-soci

JALの「トラブル」「ミス」には食傷気味だ。JAL自身ではなく、報道に対して。
なにせだらだらと事象をなぞった上、「信頼回復はまた遠のいた」だ。そこには事象の分析も考察も何も無い。
「安全神話」などメディアの妄想でしかないというのに。

なので、私の手でこの事象をすこし分析してみたいと思う。


まず、事象の確認だ。

 JALホームページ「7月24日JL1001便 新千歳空港着陸時の逆推力装置不作動について」
 http://www.jal.com/ja/other/info2005_0726.html

いつもながら、すばやく、なおかつきちんと整理されているプレスリリースに敬意を表したい。

今回の事象は航空・鉄道事故調査委員会も入らないようなので(これは一方で、この事象が事故等につながる重大でないものであることを示唆している)、ここから事象を把握していきたい。

各報道とプレスリリースから、以下のように事象のポイントをまとめてみた。
 1)子会社での塗装作業の際逆推力装置にロックピンを装着。その際ピンの装着を示す目印を外から見えないようにしてしまう
 2)作業終了後の点検で、ロックピンが外れていないことを見落とす
 3)子会社から日航への引継ぎの際、この部分に対する点検がなされなかった
 4)出発前点検でも点検されず
 5)JL1001運航、着陸時に逆推力装置が不作動
 6)車輪ブレーキとスポイラーにて減速、通常通り着陸


次に、この事象のカギである「逆噴射」について考察する。
30代以上の方なら、羽田沖の逆噴射事故を思い出す人が多いかもしれない。この「逆噴射」、正確には「逆推力」という。

 JAL航空用語辞典「逆推力装置」
 http://www.jal.co.jp/jiten/dict/p217.html#08-11

車では、リバースというと後退させるために使うギアポジションだが、航空機では速度を減じるときに使用する。減速のための装置としては、他に車輪ブレーキやスポイラーがあり、逆推力はあくまで補助的なものである。最終的に航空機を止めるのは車輪ブレーキである。

この、逆推力装置が作動しないことによる不具合にはどのようなものがあるのか。
減速補助の仕組みである逆推力装置が必要となる場面は2つ想定される。

 1.着陸時の減速
 2.離陸中断時の減速

1.の着陸時の減速で、逆噴射が作動しないことで問題、特にメディアが心配するオーバーランが発生するのか。
着陸時に必要な距離は、このように定められている。

 JAL航空用語辞典「着陸距離」
 http://www.jal.co.jp/jiten/dict/p291.html#03

ここを見ると分かるように、着陸距離の算定には逆推力装置の使用を考慮していない。あくまで逆推力は余裕として見られているだけである。
さらに、着陸に必要な滑走路の長さは「必要着陸滑走路長」として着陸距離からさらなる余裕が設けられている。

これらのことから考えると、逆推力が作動しなかったこと自体による事故の可能性はないと考えてよい。
ただし、何らかの事情で接地点(着陸地点)が延び、残り滑走路長が着陸距離を切る状態になった場合、本来行うべき着陸復行(Go Around)を行わず、パイロットが逆推力を頼りに着陸を継続すると、オーバーランの可能性が出てくる。

 接地点が延びたにもかかわらずパイロットの判断の誤りでオーバーランした例(国土交通省航空・鉄道事故調査委員会/PDFファイル)
 http://araic.assistmicro.co.jp/araic/aircraft/download/pdf/02-9-JA8727.pdf
 (注:この事例には逆推力の問題はない)
 
しかし、これはパイロットが規定を甘く見たことが問題だ。パイロットが規定と手順を守る限りは、逆推力が不作動であったとしても安全な着陸が可能だということに変わりはないだろう。

次に、2.の場合だ。これが行われるような状況は、エンジントラブルの発生など、1.の場合よりも切羽詰った状況であるといえるだろう。

 JAL航空用語辞典「必要離陸滑走路長」
 http://www.jal.co.jp/jiten/dict/p277.html#03

しかし、そのような緊急事態が想定される場合でも、必要な停止距離(加速停止距離)には逆推力は含まれていない。別の言い方をすると、「停止に逆推力が必要になるような距離まで滑走したら、基本的にどのようなことがあっても離陸する」ということだ。

このことから、離陸時においても逆推力の不作動が問題となることはないといえる。

よって、「通常の手順が守られている限り、逆推力装置の不作動自体が安全に与えるリスクは軽微である」といえるだろう。


では、これらを踏まえて、今回の事象について改めて検証してみよう。

1)ピンの装着を示す目印を外から見えないようにしてしまう
 →今回の事象を誘発した一番の原因である。
リスクを増大させる要因であり、要改善。
目印を作業の支障にならないものに変更するか、そもそも目印をなくしてしまったほうがよいだろう。
そのほうが2)の段階でのミスを防げる。

2)ロックピンが外れていないことを見落とす
 →目印がついているという前提で点検をするので当然見落とすであろう。
JALでは、今回の事象を踏まえ、この部分を「現認(目印ではなく現物を確認)」することとした。

3)4)点検されず
 →点検手順の中にこの部分が入っていたのか不明。
手順に入っていたのならミスだが、入っていなかったのであれば問題なし。
点検は優先順位がある。より重大な部位を集中的に点検すべきであり、逆推力装置の作動確認が優先されるべきかを考えると、前段の検証から「事故に直結する事柄でない」と考えられるので、点検項目がなかったとしても不手際だとはいえないだろう。

5)6)着陸時逆推力が作動しなかったが、通常通り着陸
 →問題なし。
前段での分析の通り。逆推力が作動しなかったことで、通常の運航が行えなくなるような事態にはならなかった。
毎日には「路面が乾燥していたこともあり、滑走路を飛び出さなかった」とあるが、これは同記事の後段にもあるとおりプアな路面でも問題なく着陸できる可能性が高く、誤解を招く記述だ。

上記のことから、私はこの事象を、「点検時のミスにより航空機が完全な機能を有さないまま飛行をしたが、飛行に重大な影響を及ぼすものではなく、今後の改善を行うのみで十分」な事象だと考える。メディア報道の言うような、「あわや事故」とは程遠かったとおもわれる。


航空機はたくさんの人間が介在することで成立しているシステムである。人間が介在する以上、ミスは当然あるもので、一つのミスが重大な結果を招かないよう、多重のチェック体制や、チェックの重みづけがなされている。もちろん、ミスは少ないに越したことはないし、早く見つけるに越したことはないが、どんなに対策を施したとして、それでも発生するのがミスである。今回の事象は、まさにそんな「くぐりぬけたミス」であろう。
くぐりぬけたミスが重大な結果の引き金になりうることは否定はしない。しかし、私たちが大切なことは、ミスやトラブルの件数の多寡を問うことではなく、そのミスやトラブルに対して、航空会社が常にオープンであり、真摯に向き合い、対策が出来るかどうかを知ることだ。ミスやトラブルの多寡がその航空会社の品質を決めるのであれば、微小なミスは隠してしまえばよい。そのような会社がどのような結果を招くのかは自明である。

私はむしろ、メディアの「一つのミスも許さない」姿勢に危惧を覚える。事象の重みづけさえ出来ないのに、なぜ批判だけを一方的に行うのか。ミスの数をあげつらうかのような報道は、かえってミスを隠蔽する要因になりかねないことに気づかないのか。
事象の本質、航空というシステムの特性を考えないままの報道は、世論の不安を無用に煽り、航空マンの自尊心を傷つけ、ミスをオープンにすることで安全を担保するシステムに対する挑戦であると考える。


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